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岸和田市の農業
農業王国
府内トップの産出額
豊かな自然に恵まれる岸和田市は、古くから農業が盛ん。
現在では、農業産出額や耕地面積が大阪府内でトップレベルです。
農業王国・岸和田の過去から未来への変遷を追います。
久米田池が基盤となった岸和田の農業
岸和田市域では、紀元前2世紀頃から低湿地を中心に稲作が行われていました。やがて、周辺エリアにも稲作が広まりますが、八木郷には大きな川がなく、干ばつや水不足が課題に。それを解決したのが、ため池・久米田池で、完成以降一帯の田畑を潤し、農業の支えとなりました。その後、津田川・牛滝川・春木川に堰が作られ、水路やため池が整備されていきました。
江戸時代、米は大半を年貢として納めなければならず、糸や布にして売るための綿や、砂糖の原料となる甘蔗(サトウキビ)も盛んに栽培されました。また、藩主が栽培を奨励したミカンは、明治以降品種改良が進み、収穫量が増加。さらに、タマネギをはじめ、桃や花卉、チーゼルなどの栽培も定着しました。
昭和に入ると特産のミカンとタマネギはさらに生産量がアップ。 さらに、トマトやダイコン、サトイモ、ショウガ、イチゴなど、生産される農作物の種類は多様になりました。
大阪府内最大の農業用ため池・久米田池
満水面積は府内第1位の45.6ヘクタール、貯水量157万t、周囲延長2650mもの農業用ため池。約1300年近く前に築かれて以来、改修・整備を繰り返し、現在も農業用水として田畑を潤しています。平成27年(2015)に は、世界かんがい施設遺産に。
泉州たまねぎの祖・坂口平三郎ヒストリー
平三郎は文久元年(1861)、土生新田(現 土生町)の農家に生まれます。明治12年(1879)、神戸の西洋料理店でタマネギを食べたことをきっかけに、アメリカ人から分けてもらったタマネギ3個で栽培実験を開始。苦心の末にタマネギの採種・栽培に成功します。種子を無料で配布するなど、平三郎が栽培を奨励したことで、タマネギは泉州の特産品として定着したのです。
大阪府屈指の農業王国は丘陵地区を中心に発展中
現在は、都市近郊農業によって府内きっての農業王国となった岸和田市。大阪市に近い立地と、発達した交通網を生かし、鮮度の高いまま大消費地に農作物を届けられるのが強みです。
そして、今後の農業基盤強化のため整備を進めているのが、丘陵地区・ゆめみヶ丘岸和田の農エリア。"都市・農・自然が融合したまち"をめざすゆめみヶ丘岸和田では、約36ヘクタールを農エリアとし、農地の整備・売却を進め、営農規模の拡大を図っています。近くにある「道の駅 愛彩ランド」の農産物直売所は、安全・安心な食材や加工品が並ぶ地産地消の拠点として、すでにおなじみ。愛彩ランド出荷協力会の岡本冠一会長によると、愛彩ランドでは少量でも販売ができるため、新規出荷者も増えたそう。農エリアでは、消費者と直結する愛彩ランドや、JA営農センターなどと連携しながら、新規就農者を増やす取組み、先端技術を用いた施設園芸の展開など、次の世代へ向け、地域農業のさらなる活性化をめざしています。

農家が育てた季節の農作物や加工食品、漁協から直送の魚介などがズラリと並ぶ直売所のある道の駅。 レストランでは、とれたての食材を使った料理をバイキングで楽しめるランチが評判です。食と農に関する体験ができる体験交流館もあり、岸和田市内外の人々の交流拠点になっています。
地域と連携し、商品開発や販売実習、PR活動を展開する、産業高校の商品開発クラブ。2020~21年には、大阪府、カゴメ、ロート製薬と協力し、岸和田産春菊(きくな)を使った飲食店メニューの開発を行いました。開発したメニューは、グランフロント大阪内のレストランにて提供され、春菊(きくな)の認知度向上、消費拡大の機運を盛り上げました。
農業王国 岸和田名産のフルーツ&ベジタブル
府内トップの産出額
生産地と消費地との近さを生かした都市農業を展開する、
岸和田市ならではのフレッシュな農作物の魅力に迫ります。
岸和田市の桃の生産量は大阪府随一。なかでも、栽培の歴史が150年以上あり、「桃と赤鬼」という昔話も伝わる包近地区の桃は、「包近の桃」ブランドとして、近年人気がうなぎ上りです。人気の秘密は糖度の高さ。大阪市という大消費地が近く、樹上でギリギリまで甘さを蓄えられるので、通常でも10~12度、さらにそれを超えるような糖度の果実が出荷できるのです。冬場に肥料を与えて剪定、春には摘蕾・摘果の作業を経て、最終的に実る桃は1枝に1個以下。ひとつずつ丁寧にかけられた袋の中で美しく育つ果実は、ジューシーでスイートなとっておきです。
"世界一甘い桃"が包近に!
包近の桃農家・松本さんの育てた桃が、糖度の高さで平成27年(2015)にギネス世界記録®に認定。バクタモンという土壌改良微生物資材を取り入れる栽培法 を長年にわたり研究した成果で、その糖度は、果実全体の平均値がなんと22.2度を記録しました。「世界一甘い桃」として、包近の桃人気を後押ししています。

ギネスになかった「食物の糖度」というカテゴリを生み出しました!
たっぷりの水分と甘みが魅力の泉州たまねぎ。明治時代に、岸和田で採種・栽培が成功し、その後、稲作の裏作として作付面積を拡大。昭和37年(1962)には606ヘクタールもの土地で栽培され、岸和田のみならず泉州の特産品となりました。現在は当時より生産量は減っているものの、ブランド力の高さは健在。砂地ではなく、土で栽培することでよく締まった実に育つのだそうです。肉厚で軟らかく濃厚な味で、長年愛されています。
岸和田市をはじめとした泉州や南河内で盛んに栽培される、都市近郊の果物の代表格。早朝に収穫すると翌日には販売されるので、完熟の果実が新鮮なまま届くと消費者に好評です。大阪では明治以前から栽培され、水田の転作などで生産量を増やしました。食物繊維や鉄分なども豊富で、女性人気も高いイチジク。漢字で書くと"無花果"ですが、実は私たちがおいしくいただいている果実の中の部分が花なんです。そのままはもちろん、ジャムやワイン煮、サラダなどでもぜひ。

令和元年(2019)から2年連続で、全国1位の春菊生産地となった大阪府。府内最大の産地は、岸和田市などの泉州地域で、大阪では"きくな"とも呼ばれています。傷みの早い軟弱野菜ですが、栽培されるのは株が横に這う「株張り型」のため、根から引き抜いて鮮度を保つことが可能。新鮮でさわやかな味は、鍋やおひたし、おでんなど関西の食文化に欠かせない葉物野菜として愛されています。アクが少ないので、サラダなど生食もお試しあれ。
岸和田市の特産としてまず名の挙がる泉州水なすは、泉州特有の品種。室町時代には栽培されていたようで、ほかの地域で育てると品質が変わるというほど、泉州の気候や食生活と深く結びついています。柔らかな果皮は輸送が難しく、かつては地元でのみ消費されていましたが、約30~40年前ごろから品種改良が進み、1990年代にはなにわ特産品に選定されるなど、生産者も行政も需要拡大策に着手。輸送技術も発達し、全国で消費されるようになっていきました。皮が薄く、実の約92%は水分。アクが少なく、糠漬けはもちろん生でも美味。ひと口でトリコにしてしまう味のよさで需要と知名度は拡大中です!
その甘さから「衝撃のニンジン」とも呼ばれる彩誉®。岸和田市に農場のある種苗会社が開発した品種で、ニンジン特有の匂いやクセがなく、フルーティーな味わいです。その甘さを生むのは寒さ。9月に種を蒔き、収穫される12~3月まで寒気や強烈な霜に当てることで、甘さが増すのだそう。また、ニンジンは土の養分をたくさん吸収するため、収穫後の土作りが重要で、春には麦を、夏にはソルゴーという植物を栽培し、どちらもそのまま土に漉き込むことで、養分の豊かな土壌を作り上げます。一年中手間暇かけて育てられた、冬季限定の味覚は必食です。