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報道発表「第37回 濱田青陵賞受賞者の決定について」
概要
令和7年5月30日、朝日新聞大阪本社で行われた濱田青陵賞運営協議会並びに選考委員会において、第37回濱田青陵賞の受賞者が、島根大学法文学部准教授 岩本 崇氏に決定しました。授賞式式典、記念シンポジウムは9月21日(日曜日)に開催予定です。
詳細
受賞者
- 受賞者名:岩本 崇(いわもと たかし)
- 年齢:1975年 奈良県生まれ(現在50歳)
- 現職:島根大学法文学部社会文化学科准教授 博士(京都大学 文学)
- 受賞理由:三角縁神獣鏡を軸とする古墳編年の構築と地域史の実証的研究
- 主な論著:『銅鏡から読み解く2~4世紀の東アジア 三角縁神獣鏡と関連鏡群の諸問題』勉誠出版 2019年(共著) 『三角縁神獣鏡と古墳時代の社会』六一書房 2020年 『器物の「伝世・長期保有」「復古再生」の実証的研究と倭における王権の形成・維持 』島根大学 2023年(編著) 『中期古墳編年を再考する』六一書房 2024年(編著) 『戦争遺跡の保存と活用―文化資源としての可能性を探る―』今井書店 2025年(編著)
主催
岸和田市・岸和田市教育委員会・朝日新聞社
岸和田市文化賞 濱田青陵賞
濱田青陵賞は、岸和田市にゆかりが深く、我が国考古学の先駆者として偉大な功績を残され、多くの後進を育成された濱田耕作(号:青陵)博士没後50年にあたる1988年に、「岸和田市文化賞条例」に基づき、岸和田市と朝日新聞社とが創設しました。
博士の業績を称えるとともに、我が国考古学の振興に寄与する目的で、業績のあった新進の研究者や団体を広く選考し表彰するもので、今回で37回目をむかえました。
受賞理由
【受賞理由】
第37回濱田青陵賞選考委員会は、令和7年(2025年)5月30日に開催され、厳正な審査の結果、島根大学法文学部社会文化学科准教授の岩本 崇氏に決定しました。
「三角縁神獣鏡を軸とする古墳編年の構築と地域史の実証的研究」
岩本崇さんは早稲田大学で考古学を学び、京都大学大学院に進学して三角縁神獣鏡と古墳時代の研究に着手しました。大手前大学史学研究所の研究員をへて、いま島根大学法文学部准教授として考古学分野を担当しています。
岩本さんは「徹底的な実物観察と詳細な資料化」という考古学のオーソドックスな研究法を堅持し、紋様を中心に分析されていた三角縁神獣鏡について、高精度の三次元デジタルデータを参考にしつつ、逐一実物にあたって断面図を作成した結果、その形が紋様のタイプと相関していることを発見し、新しい類別をもとに編年を組み立てました。それを主軸として同時期の魏晋鏡や倭鏡を組み合わせて前期古墳出土鏡の全体を編年し、石製品や鉄製武器などの副葬品や埴輪・土器の編年とリンクさせることによって前期古墳の体系的な編年を構築しました。
そのうえで岩本さんは古墳の築造順序と副葬鏡の相対年代とを地域ごとに照合し、古い段階の鏡が新しい段階の古墳に副葬されている現象について、鏡がそれぞれの地域で長期に保有・伝世されたのではなく、倭王権の中枢で長く保管されていた鏡が後れて分配されたと考え、一定の自律性をもつ地域社会が倭王権を中心とする広域的関係に組み込まれてゆくプロセスを描き出しています。古墳への器物の副葬を時期ごと地域ごとに分析する岩本さんの問題提起により、新たな地域史の方向性が示された点は特筆すべき成果といえるでしょう。つづく中期古墳に対しても、岩本さんは独自の鏡編年に加えて甲冑・鉄鏃・埴輪・須恵器に関する諸研究を総合した編年体系を整備しています。それは実用性と信頼度の高い古墳編年として多くの研究者に利用されています。
岩本さんはまた「フィールドに根ざした研究」をモットーに、幅広い経歴と人脈を生かして関東・東海・近畿・北陸・山陰など各地の古墳調査に参画し、現地の研究者たちと共同でクオリティの高い報告を陸続と公表しています。地域に根ざした岩本さんの研究は、そうした地道な共同作業がもとになっています。
また、岩本さんは学会などの研究者コミュニティの場で積極的に活動し、リーダーシップを発揮してきました。中国四国前方後円墳研究会の事務局を担当して古墳編年に関する共同研究を主宰し、2024年10月には島根大学にて「地域と交流の考古学」をテーマとする日本考古学協会大会を執りおこない、実行委員会事務局長として大学・学会・地域の連携に大きな役割を果たしました。近年はまた青銅器の分野横断的な共同研究に取り組み、東北大学金属材料研究所との連携、さらには文部科学省の補助をうけて島根大学が推進する先鋭研究領域創出プログラムの人文社会系プロジェクトリーダーとして鏡など青銅器の理化学的分析を精力的に進めています。
このほか学内の教員を結集し、「物質資料としての戦争遺跡を対象とする学際的研究手法の創出」を課題とするJSPS科学研究費(挑戦的研究)の研究代表者として、島根県旧海軍大社基地遺跡群などの調査と研究を主導しています。それは消えゆく戦争遺跡の保存と活用に対する大きな問題提起になっています。
岩本さんの研究は、さまざまな地域と専門分野の研究者との交流を通じて近年ますます多岐にわたる広がりをみせ、新しい視点と研究領域を生み出しつつあります。今後いっそうスケールの大きな研究者として日本考古学をリードしてほしい、そのような期待を寄せて濱田青陵賞を贈ります。
第37回濱田青陵賞選考委員長 岡村秀典
問合せ先
郷土文化課 電話:072-423-9688